インドのウェルネスリゾートである。当然、アーユルヴェーダやヨガ、といったインド由来の施術に長けていることは間違いないが、いろいろな面で気軽に行くにはちょっとチャレンジングな国であることも間違いない。さらに、ウェルネスリゾートといえば、長年にわたり関わっているタイのチバソムがある。比較する意味はないとわかっていてもどうしても比べてしまうが、両者の違いや共通点に興味がある方もいるかもしれないので、あえて、比較していこうと思う。

ヴァーナに行く途中に通る普通の町

 

5台の車が横に並んでいたが、実際は2車線だった

森に囲まれた敷地の中も緑あふれる

野生のサルがいろいろな場所に出没

Cuiロケーション

羽田からデリまでは直行便があり、(インド系航空会社は成田発着)10時間ちょっとのフライトだから「タイ含むアジア」諸国よりかなり遠い。国際線のデリ空港は極めて普通。とんでもない数の人々であふれていることは全くなく、スパイスの香りにむせることもないし(カレー臭なし)、清潔できれいな空港だった。こう説明するといかにも先入観のかたまりでインドに行ったことがバレバレだが、多くの人に共通する点だと思う。 国内線の乗り継ぎはストレスが多かろう、というリゾート側の考慮もあり、ありがたくデリ空港からSix Senses Vanaの車で移動したが、この6時間の道のりはかなりスリリングだった。となりの車線の車、対向車線の車、すべてが脅威となる運転スタイル。町中を通過する際は、渋滞もさることながら、一刻も早く通過したいと願う。高速道路が完成すると2時間強でほぼ高速道路のみで移動できるようになるそうなので、それに期待したい。ハラハラドキドキのロードレース(?)からSix Senses Vana(以降ヴァーナと記載)の敷地に移動した瞬間、時空を飛び越えたような錯覚を覚えた。広大な森林保護区の囲まれた敷地は実に2500坪超え。思えばここインド北部のウッタラーカンド州はネパールに隣接し、聖なるヒマラヤの麓で、インド4大聖地のひとつ、リシケシュにもほど近い特別なロケーションである。

この白い上下がクルタパジャマ

Six Senses Vana での滞在開始

身軽な手荷物だけで旅ができるよう、客室には「クルタパジャマ」と呼ばれるコットンのウェアが数着(常に)用意されており、滞在中のゲストはほぼ全員クルタパジャマで終日過ごす。当リゾートの総支配人によると、滞在中はすべてのゲストが同等にウェルネスに向き合うべきで、着衣や装飾品を気にすることがない環境が必要だそう。クルタパジャマと聞くと、寝具のパジャマと勘違いしそうだが、部屋着兼運動着兼寝間着であることが十分ゲストに伝わっているようで、皆そろってクルタパジャマで敷地内すべてを移動していた。確かに動きやすいし、汗をかいたら替えればいいし、下着以外の衣類を持参する必要がないのは素晴らしい。

ヴァーナでは、5泊からの滞在が対象となるウェルネス向上プログラム、睡眠、デトックス、ヨガ、チベット医学の4種類が用意されており、ウエイトマネージメント(主に減量)と、アーユルヴェーダの本格的プログラムは14泊か17泊と長い。チバソムは16種類のリトリートプログラムを3泊から提供しているが、実際効果を実感できるのは5泊からと思うので納得。そして、ヴァーナでは、アーユルヴェーダのドクターが最初のコンサルテーションを行う。事前に提出した問診票の内容に加え、身長・体重・血圧の測定、スクリーニング(体内の健康状態を科学的に分析)、生活習慣に関しての問診を行う。さらにドーシャ診断が特徴的だ。ヴァータ、ピッタ、カバを読み取り体質を診断するそう。バランスを整えるのに必要な情報のようだ。それらの結果をもとに滞在中の最終プログラムが決定する、ひとり一人のカスタムメイドだ。インドではアーユルヴェーダ医療看護学士号があり、大学で取得するとアーユルヴェーダのドクター資格を得る。コンサルを行い様々なウェルネスのアドバイスを行う重要な存在だ。ちなみに、デトックスとチベット医学プログラムにはアーユルヴェーダの施術が含まれていないので、インドに来た以上、アーユルヴェーダを!を思われたら、睡眠向上かヨガのプログラムをお勧めしておく。

チベット伝統医学は現地ではソワリグパと呼ばれる

デトックス・アット・シックスセンシズ ヴァーナ

私はデトックスプログラムを選んだのだが、ヴァーナの特徴的なチベット医学のトリートメントが多数含まれていた。チベット伝統医学のルーツはアーユルヴェーダで、中国伝統医学の影響も受けている。チベット医学のメッカは、ダラムサラで、ダライ・ラマ14世が8万人の難民と共にインドに亡命した際の場所。ダライ・ラマ14世がチベット難民の社会復帰や伝統を守るためにチベット医療と占星術の訓練所(メン・ツェー・カン)を設立し、ヴァーナはメン・ツェー・カンでの教育費を負担した上で、難民をセラピストとして雇用している。チベット伝統医学の施術をきちんと受けられるスパはまだ少数で、貴重とも言える。チベット由来のハーブやオイルをふんだんに用いるチベット医学の施術は血行促進、過剰な体脂肪の減少、体内の細胞再生、動悸・頭痛などのストレス障害の緩和、不眠、耳鳴りなどにも効果があるという。

さて、インド式(ヴァーナ式)デトックスのハイライトはヨガとフィットネスを組み合わせた激しい高速ヨガ(私が名づけた)だった。いや、その前にレモンで香り付けしたかなりの濃度の塩水を沢山飲む。塩水を飲むだけでも吐きそうになるのだが、それを我慢してそのあと、数種類のヨガのポーズを10倍速ぐらいのスピードで繰り返し行うため苦しいなんてものではない。さらに量を増した塩水→高速ヨガを永遠に繰り返す、ように感じたが、実際はさらに3回ほど。限界に達してトイレに駆け込むと、(トレイナーの許可は得た)あっさり胃の中は空になってしまったが、それで良いとのことだった。そして、その後の数時間で胃腸の中身もすべて排出してデトックスが完了する。部屋に帰ってからトイレに駆け込んだ回数が8回だったと敷地内で偶然会ったトレイナーに報告すると「Very good」と微笑み返しをいただいた。汗も含め、体内から排泄することがデトックスのベストな方法とは聞いたことがあるが、インド式は激しかった。中医学由来の腸のマッサージでほぐしつつ、近代的な機器による腸内洗浄でデトックスを行うチバソムはかなりソフトなアプローチと言えるだろう。

滞在中の食事メニューも、高速ヨガデトックスの後は、かなり消化の良いスープメインのものに変更され、あの激しさからは打って変わり体に優しい時間を迎えるようになった。レストランスタッフが全て把握しており、間違えて(または故意に)別なものをたべてしまわないように管理されている。

バラエティー豊富なノンギルティー・スイーツ

シックスセンシズ ヴァーナの食事とルール

チバソム同様にヴァーナでは自室以外での携帯、カメラ、デジタル機器の使用が禁じられている。本気でウェルネスに取り組んでいただくためのデジタルデトックスだ。そしてアルコールのルールはチバソム同様に夕食時に限るが、内容はだいぶ異なり、ビール、ワイン、または日本酒を2杯までオーダーできる。(チバソムはオーガニックワインとシャンパンのみ夕食時にオーダー可)オールデイ・ダイニングの「サラナ」では、チバソムの「ウェルネス・キュイジーヌ」の様な特別な名称は用いていないが、地元のオーガニック認証を得た生産者からのみ食材を調達する。グルテンフリーとは唄わないが、精製穀物や油、白糖、その他加工食品も使用しないヘルシーフードだ。メニューにはカロリーのみならず、脂質、炭水化物、タンパク質、食物繊維の分量が「g」で、さらに卵や砂糖の不使用表示もあるので、食物アレルギーや、ビーガン、ベジタリアンなど食物嗜好にもわかりやすく対応している。日本風のうどんや、野菜で作ったスシなど遊び心のあるメニューも楽しめる。毎食美味しくいただいた。ユニークなのは夕食のみ提供するアーユルヴェーダ・レストラン「アナユ」。3種の体質(ドーシャ)、「ヴァータ」「ピッタ」「カパ」のためのメニューを用意している。到着後のコンサルテーションで自分のドーシャはわかっているので、それをオーダー。アーユルヴェーダはオイルたっぷりのマッサージのみならず、食事でも体験できることを初めて知った。

また、ヴァーナではアフタヌーンティーも是非楽しんでみるべき。世界的な紅茶の産地でもあるインドならではの茶葉が数種類から選べる。スイーツは全粒粉、砂糖控えめのギルティーフリー。 彩りもあざやかで素敵な午後のひとときを過ごせることは間違いない。他のゲストとの会話のきっかけにもなり、ゲスト同士の交流の場としても人気がある。

竹に囲まれた瞑想スポットバンブーグローブ

本場のヨガと瞑想

ヴァーナにはヨガのスペシャリストも多数常駐しており、そのすべてがヨガの修士号(マスター)を取得している。インドでヨガインストラクターになる為には大学でヨガを学び、3年間で学士、学士過程後に2年間の修士課程を経て修士号を取得し、インストラクターとなる。アーユルヴェーダと異なり、ドクターとは呼ばれないそう。ヴァーナにコンサルタントとしてクラスを開催していたヨガ・マスターは、上級クラスのインストラクターで、インドでは「科学的な学問」として存在する占星術のスペシャリストでもあったのは興味深かった。生まれた日にちと時間、場所だけで現在の「私」をびっくりするほど正確に言い当てると聞く。

ヴァーナには、チベット医学センター地下にある瞑想の洞窟に加え、庭園内の竹に囲まれたスポット、バンブー・グローブ、さらに菩提樹の下で佛陀像と向き合って瞑想するリフレクション・ガーデンもあり、ヨガの瞑想の重要性がわかる。チバソムでもヨガ・マスターに匹敵するトレイナー、アーユルヴェーダのスペシャリストも常駐しているが、インド由来を極めたい人はやはりインドに行くのがいいだろうと強く思う。

フォレストスイートのベッドルーム

テラスは森の一部にあるみたいだ

シックスセンシズ ヴァーナでの宿泊

最後に、ホテルとしての宿泊にも触れておきたい。66 の客室と16のスイートを有し、白とナチュラルな木目が基調の客室は極めて居心地がよい。今回、森に面しているフォレスト・スイートに宿泊したが、100㎡近いこのスイートは、リビング〜ベッドルーム〜バスルーム〜ウォークインクローゼットの導線が優れており、広々としてスペースを心地良く能率よく楽しめた。客室以外のパブリックスペースもラグジュアリーな造りで、室内はどこも完璧な気温に保たれている。外気温40度近かったのだが、それをあまり感じることなく心地良い滞在が叶った。ヴァーナが位置するインド北部のウッタラーカンド州までのアクセスはまだ課題があるとはいえ、心地良くすごし、美味しく食べ、本物のアーユルヴェーダとヨガ体験を極めるには、ヴァーナへの来訪を心から勧めたい。

Texts: Yuki Obara / Photos: Hiro Matsui (一部除く)

創業以来多くのゲストから愛され、高く評価されているヴァーナが、2023年1月よりシックスセンシズのコレクションに加わりました。インド北部に位置するシックスセンシズ ヴァーナは、古代から伝わる知恵と現代の革新性を組み合わせ、一人ひとりに合わせたウェルネスの旅へゲストをお連れすることを信念としています。

ヴァーナは、ヒンディー語で森を意味し、周辺に生い茂るサラノキの森にちなんで名付けられました。21エーカーの広大な森は、ウェルネスの旅において発見と発展を促す大切な環境を提供しており、リゾートはその保護と育成にも取り組んでいます。ゲストは、充実したデイリーアクティビティーと個別のサポートを通じて、アーユルヴェーダ(インドの伝統医学)、ヨガ、チベット医学、自然療法を幅広くご体験いただけます。シックスセンシズ ヴァーナのリトリート(心身を整えるプログラム)は、アーユルヴェーダ料理専門のレストランを含む栄養豊富な食事から、鍼、リフレクソロジー、ナチュラルアライメント(歪み矯正)を含む各種療法、スタッフによる心のこもったサービスまで、全ての要素が揃っています。さらに、ゲストの心身の状態と滞在目的に基づき、最善の結果をもたらすよう各要素を融合する手法は大変ユニークであり、他のリゾートと一線を画します。

総支配人のジャスプリート・シンは、次の通りコメントしています。「リゾートに到着された後、額に祝福を表すビンディと呼ばれる赤い印を施し、ゆったりとしたクルタパジャマに袖を通された瞬間から、お守りとして赤い糸を手首に結びリゾートを出発される瞬間まで、誰もがありのままの自分でいることができ、穏やかな環境の中で互いに絆を深め、自然とのつながりを取り戻していただけます。定期的にリトリートに取り組む経験豊富なゲストを含め、全てのゲストは異なり、心身の状態も変化します。そのため、シックスセンシズ ヴァーナでは、個々のゲストに合わせた方法で健康とウェルネスにアプローチします。」

リトリートの目的と含まれる内容

リトリートには、全てのゲストに当てはまる共通の目的や目標は設定されておらず、滞在日数、達成されたいレベルや希望されるサポートに合わせて設定されます。全ての滞在には、ウェルネスコンサルテーションとスクリーニング、各々の目標に沿ったトリートメント、3食の食事、パーソナライズされた栄養、毎日のリトリートアクティビティー含まれるほか、着心地の良い服も用意されます。

滞在をより充実させるオプションメニュー

ゲストは、デイリーアクティビティーに加え、アーユルヴェーダに基づくサトルエナジーズのトリートメント、鍼、リフレクソロジー、アライメント、贅沢なマニキュア・ペディキュアサービスなどをオプションとして追加することができ、充実した滞在をお楽しみいただけます。

特定のウェルネス分野に集中して取り組むリトリート

プログラム内容を集中的に取り組みたいウェルネス分野に基づいて選ぶこともでき、各分野の専門家が診断やガイダンスを提供します。

  • Sleep(睡眠): 睡眠パターンを追跡し、ヨガニドラ、ホリスティックマッサージ、安眠を促進するドリンクなどのトリートメントやセラピーを通じて、睡眠に関する悩みの解消をサポートします。
  • Detox(デトックス): デトックス用の食事プラン、アーユルヴェーダトリートメント、自律神経の「闘争逃走反応」を鎮めるセラピー、デジタルデトックスを行い、エネルギーレベルをリセットすることにより、リフレッシュしていただけます。
  • Weight management(体重管理): エクササイズ、体を活性化させるトリートメント、瞑想、バイオハッキング、パーソナライズされた食事プランを通じて、無理のない減量または増量を達成できるよう習慣や思考パターンをリセットします。
  • Yoga(ヨガ): 初級者から上級者までレベルを問わず、本場インドのヨガに取り組むことが出来ます。リゾート独自のヨガ講師チームが、プライベートレッスンから、ガイド付き瞑想、シグネチャーマッサージとエネルギー療法付きのブレスワーク(呼吸法)まで、幅広いセッションを提供します。
  • Ayurveda(アーユルヴェーダ): アーユルヴェーダ医とセラピストによるトリートメントが、生命エネルギー(ドーシャ)のバランスを整えます。
  • Tibetan Medicine(チベット医学): シックスセンシズ ヴァーナは、正式に「Sowa Rigpa(ソワリグパ、チベット医学)」を総合的に提供する世界でも希少な場所です。

人間的な温もりを大切にしながらハイテク技術も取り入れたシックスセンシズ ヴァーナのリトリートは、背中の痛みや炎症といった一般的な健康に関する悩みや症状にも対応します。ゲストは、リゾートに到着後、加圧療法、背中を温める温熱ベルト、パーカッションマッサージ機で、長旅の疲れを癒していただけ、治癒プロセスの良いスタートになるでしょう。スクリーニング検査では、40項目のバイオマーカーを測定し、医師の診察と合わせて、古代から伝わる健康に関する知恵に科学的な視点を加えます。このほか、温かいワッツプールでのフロテーション(水に浮かびながら行う瞑想)や、フルートの静かで催眠的な音色がポジティブな感情を呼び起こすラーガセラピーといった多感覚に働きかけるトリートメントもお楽しみいただけます。

シックスセンシズのシグネチャー体験

ヨガ発祥の地として知られるリシケシに近く、ヒマラヤ山脈への玄関口であるデラドゥーンの北に位置するヴァーナは、2014年1月の創業以来、再調和、癒し、学びのための聖地として常連のゲストの方々から親しまれてきました。シックスセンシズに加わった後も、その理念のほとんどが継承され、チームも変わらず、創業者のヴィール・シン・ジが引き続きリゾートオーナーです。シックスセンシズの一員となったことにより、シン・ジの持続可能な農業、伝統的な知恵、自然に対する深い関心と敬意がさらに発展していきます。

シックスセンシズ ヴァーナとして進化したことにより、世界中で成功を収めるシックスセンシズならではの体験がヴァーナのリトリートと補完しあい、これまでのサービスが拡充され、より広いゲストのニーズに応えることが出来るようになりました。例えば、上記のプログラムに加え、シックスセンシズ独自の施設「アルケミーバー」にて、ゲストのドーシャタイプに合わせてスパで使用する製品を手作りしていただけます。2023年後半には、「Grow With Six Senses(自然の中で学ぶ情操教育プログラムを提供するキッズクラブ)」として、6歳以上の子供向けのアクティビティーもスタート予定です。アート、音楽、ムーブメント、ストーリーテリング、新設のインタラクティブ空間を活用し、子供たちの学びと成長をサポートします。子供たちは、自然環境と触れ合いながら自然の大切さを学ぶことが出来ます。

ヘルシーなジュース、シュラブ(ビネガーを使用したドリンク)、トニック類を提供するバーは、ゲストが集う社交の場としての役割を担います。ライフスタイルショップでは、サステナブルなファッションやスパ製品をお買い求めいただけます。また、野外シネマ、各種球技を楽しめるコートを完備するほか、アート、音楽、エキジビション、パフォーマンスといった文化的なプログラムが、リトリートを豊かに彩ります。

新しい年の幕開け

シックスセンシズ ヴァーナは、新しい年を迎え、希望と期待を胸に、これまでと変わらない心からのおもてなしでゲストの皆さまをお迎えできることを楽しみにしています。お一人でも、友人や家族、大切な人と一緒でも、“共同ダイニング”をテーマとするレストラン「サラナ」での食体験や、ハイキングやエクスカーションといったグループで行うデイリーアクティビティーを通じて、まったく新しいカタチの“共同体”としての有意義なつながりを楽しんでいただけるでしょう。